005.人々を巨大な災厄が襲った

洪水と人類の再生

旧約聖書の神ヤハウェは、他の神を敬うことを禁じ、その教えに背くとノアの方舟で有名な大洪水を起こして人類を滅ぼそうとした。ギリシアの神々も旧約聖書の神と同様、ときに人間を厳しく罰することがあった。その神のもたらした罰は、パンドラが箱を開けた後にもたらされた。
パンドラはエビメテウスとの間にビュラという娘をもうけたのだが、彼女は長じてプロメテウスの恵子のデウカリオンと結婚した。やがてふたりの間に子が生まれ、人間はその数を増やしていった。だが、それとともに人間は思いあがり、神を敬う心を忘れ、盗みや殺人などが横行するようになったのである。そんな悪行をゼウスが見過ごすはずがない。
「こんな愚かな人間どもは、洪水を起こして滅ぼしてしまおう」
そのころ、人間に火を与えた罪により、カウ力ソス山の山頂につながれていたプロメテウスは、大鷲に肝臓をついばまれる苦行に耐えながらも、ゼウスの災いを予知した。彼は息子を呼んで、次のような助言を与えたのだ。
「方舟を造るがよい。その方舟に生活に必要なものを積み、雨が降ったら乗り込むのだ」
デウカリオンは家に戻るとさっそく方舟を造り、妻とともにその中に逃れた。やがて天が抜けたかのような大雨が降り出し、川は氾濫し、大地は水中に没した。そしてその地にいた人間たちは、ひとり残さず滅んでしまったのである。
雨は9日9晩降りつづけ、その間、方舟は水の上を漂った。周囲を見渡しても、いくつかの高い山の山頂が、わずかに水面に顔を出しているだけ。
10日目の朝に雨がやみ、方舟はパルナッソス山の頂上に漂着した。生きのびたふたりはゼウスに生け贅を捧げ、命を助けられたことを感謝する。
「ゼウス様、われらの命をお救いくださってありがとうございます」
これを知ったゼウスは彼らを許した。
「殊勝な者たちじゃ。よかろう、何か望みがあれば叶えてやろう」
「では、われらに人間たちをお与えください」
「その望み、確かに聞きとどけた。デウカリオンよ、母の骨空屑ごしに投げるがよかろう」
デウカリオンは当惑した。
「母の酉とは……?」
「あなた、母とはきっとあなたの大祖母であるガイア様、すべてを生み出す大地のことよ」
ビュラの示唆にデウカリオンは考えた。
「だとすると、骨とは石のことだろうか?」
そこで彼は石を拾い、扇ごしに投げた。するとそれは人間の男になった。そして、ピユラの投げた石は女になった。
こうしてデウカリオンとビュラが祖となり、人類の再生がなしとげられた。これが今につながる人類の起源である

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