邪眼の巨人と光の神の闘い
ターナ神族の太陽と光の神であるルーは、フォモール族に敗れた一族に、最終的な勝利をもたらした英雄である。彼はターナ神族の医術の神ディアン・ケヒトの息子キアンを父とする。だが、母エスリンはフォモール族の魔神・邪眼のハロールの娘なのだ。つまり、ルーは母方の祖父を長とする一族と戦い、これに勝利したことになる。
邪眼のバロールは恐ろしい巨人である。なんといっても、片目(左目とも額の第3の目ともいわれる) でひとにらみするだけで、相手を殺すことができるのだから……。その邪眼はふだんは閉じられているが、戦場では4人がかりでまぶたを押し上げるのだとか。彼のこの力は、幼いころにドルイド(ケルトの聖職者)だった父と仲間の僧た
ちが毒を使った魔法を行使しているのを目撃し、そのときに煙が目に入って以来、身についたといわれる。
実はバロールは、ドルイドの予言によって、自分が孫のルーに殺されるであろうことを知っていた。それを防ぐために、彼は娘のエスリンを塔に閉じ込めた。だが、キアンが塔に忍び込んでふたりは結ばれ、ルーが生まれたのだ。
ターナ神族とフォモール族双方の血を引くというその複雑な出生から、ルーは父方でも母方でもない、フィル・ボルク族の王妃によって育てられた。彼はまた、太陽と光の神のみならず、知識や医術、魔術、発明などあらゆる技能に秀でた神であった。それだけではない。戦闘の場では投石機や槍を巧みに扱ったことでもよく知られていた。
そんなルーは、ターナ神族に圧政を加えていたバロールを許すことができなかった。
「祖父とはいえ、バロールは必ず自分が倒す」
と、心に誓っていたのだ。
ただひとりバロールに立ち向かったルーは、彼の邪眼が開いた瞬間、そこをめがけて投石機を用い、石を投げつけた。
邪眼は石に貫かれ、バロールの後頭部から飛び出した。そして、巨人の後ろに陣取っていたフォモール族の兵士たちをにらみつけたのである。哀れ、兵士たちは自分たちの王であったはずの魔神バロールの邪眼によって全滅させられてしまったのである。
こうしてターナ神族を最終的な勝利に導いたルーは、長く一族の王として君臨し、後にその座を長老タグザに譲った。
そして、一族がミレー族に敗れて地下世界に退くと、彼はタグザからロドルバンの妖精の丘を与えられるのだ。
なお、ルーは後述するケルト神話最大の英雄といえる、クー・フーリンの父でもある。