知識と片目を引き換えたオーディン
オーディンは、巨人ユミルの体から世界を創造した北欧神話の主神だ。神々の住むアスガルドと人間の住むミッドガルドを支配している。
彼は戦争と死の神、知識と詩文の神、また魔術をも自在に操る神だ。彼の姿は長い白髭をたくわえ、つばの広い帽子をかぶり、槍を持った老人として表される。片方の目はつぶれているが、もう一方の目は真実を見抜く鋭い光を放っている。
実は彼が隻眼(せきがん)となったのには理由があった。
世界の中心にはユクドラシルがあり、宇宙を買いてそびえている。この木の根元にはふたつの泉があった。ひとつはウルズの泉で、3姉妹の女神たちが泉から水を汲んではユクドラシルにかけ、枯れないように守っている。
もうひとつはミーミルの泉で、知恵と知識が蓄えられている。番人である巨人ミ-三ルは、泉の水を飲んでいたので、だれよりも賢い。
そんなミーミルの泉を、オーディンが訪れた。
彼は知識を求めて世界中を旅していたが、さらに賢くなりたいと考えたのだ。そこでミーミルに、「ひと口でよいのだ、わしにこの泉の水を飲ませてはくれまいか?」 と頼んだ。だが、巨人は拒絶した。
「おいそれと飲ますわけにはいかん」
「では、どうすれば水をくれるのかな?」
「おまえの目をひとつもらおう」
どうしても賢くなりたかったオーディンは、すぐさま片方の目をえぐり出し、ミ-ミルに差し出した。こうしてオーディンは隻眼となったのだ。
だが、片目を犠牲にして泉の水を飲んだオーディンは、より賢くなったのである。
オーディンはまた、ルーン文字を発明した。そして、そのために文字の秘密を知ろうと、9夜9日にわたる荒行を行ったのである。それは世界樹に首を吊るして苦しみながら、さらに椙で自分の体を貫くという凄まじいものであった。
なお、日ごろウルハラ宮殿の玉座に座り、全世界を見わたすオーディンの肩には、ブギン(思考)とムニン(記憶)と呼ばれる2羽の烏が止まっている。彼らは世界中を飛び回って情報を集め、オーディンに報告するのだ。
一方でオーディンは、勇敢に戦って死んだ戦士の魂を集め、ウルハラ宮殿に住まわせていた。そこでは日夜、激しい戦闘訓練が行われる。だが、敗れた者も日没とともに廷り、夜毎に宴会が催されるのだった。
オーディンにとって、世界を見張ることも戦闘訓練も、すべて来るべき巨人たちとの最終決戦に備えてのことであった。