005.太陽神の息子ヤマの意外な経歴

閻魔大王となった最初の人間

太陽神の息子で 『リグ・ヴエー夕』 では当初、天に属していたが、妹とともに「最初の人間」という地位を与えられたのがヤマだ。そのため彼は必然的に「最初に死んだ人間」ということになった。
さらに「死者の道」を発見したことによって、死者の国の王としても君臨することになったのだ。
ヤマの起源は、紀元前1000年ごろに書かれたとされる、ゾロアスター教の聖典『アウェスタ』にある。この中に登場する聖王イマが最初の人間、そして理想的な統治者として、ヤマに対応しているのである。ただし、この『アヴェスタ』はもとより「ヴエーダ」聖典にも、ヤマ(=イマ)が死者を裁いたという記述は見当たらない。実際「ヴェー夕」時代のヤマは、祖霊たちが暮らす天国ピトリスの、優しくおおらかな支配者だったらしい。死者たちにとってピトリスの宮殿はまばゆいばかりの美しさで、まさしく楽園だったのだ。
ところがそれが、『ラーマーヤナ』や 『マハーバーラタ』 などの叙事詩の時代になると、一変した。
死者たちの国も天界から地底に移った。優しかったヤマも、人間の死後に生前の行いを記録し、それを裁くという厳格なものになった。
死後の世界の管理者となったヤマは王冠をかぶり、体は青または緑色。血のような赤い衣を身にまとい、手には矛と縄を持っている。乗り物は水牛か野牛だ。さらに、彼につき従うのは2匹の犬。
4つの目をもつ彼らはその鋭い嗅覚で死すべき人間のにおいをかぎつけ、ヤマの元へ連れてくる。
死者はヤマの下す恐ろしい判決を震えながら闇
くのである。
ところで彼から、つまり「死」から逃れる方法がひとつだけある。それは≡神一体の神々=シヴァ、ウィシュヌ、ブラフマーを信仰することだ。
強大な権力を持つヤマも、この3人には逆らえない。こんな神話がある。
- あるとき、シヴァを信仰する男が死に瀕していた。ヤマは彼を死の国に誘おうとするが、男はリンガ像をつかんで抵抗した。立腹したヤマは、像ごと彼を死者の国に連行しようとした。
これを見たシヴァは激怒した。そして
「私の象徴を侮辱するとは何事か?」
と、ヤマを蹴り殺してしまったのだ。
ところが、ヤマが不在となった世界は大混乱に陥った。死者がいなくなったため、人間であふれてしまったのである。困り果てたシヴァは結局、ヤマを復活させざるを得なかったという。
後にヤマは仏教に習合され「閻魔」となった。

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