006.転生をくり返した美女

蝶になったエーデイン

ミレー族によって地上を追われたターナ神族が、地下世界で暮らしていたころの話である。
一族の最高神タグザの恵子ミディールは、あるときアイルランドで最も美しい少女エーディンを妻に迎えた。ところがエーディンは、そのあまりの美しさに嫉妬したミディールの最初の妻フォーヴナハにドルイドの魔法をかけられ、水たまりに変えられてしまったのである。
水たまりはやがて蒸発し、そこから生まれた毛虫は紫色の美しい蝶に変わった。この蝶がエーデインだと知ったミディールは、以前と変わらぬ愛を捧げたのである。
だが、これが気に入らないフォーヴナハは、魔法の力で竜巻を起こし、エーディンを彼方に吹き
飛ばしてしまった。そして、エーディンはその後7年間にわたって、ひとり荒野をさまようはめに陥ったのだ。
あるとき、エーディンは愛の神オェンクスの王宮にたどりついた。そして夜だけ元の姿に戻ることができたエーディンは、オェンクスに守られ、彼との恋を楽しみ、穏やかな生活を送っていた。
だがそんな生活は、またしてもフォーヴナハに邪魔をされた。
再び吹き飛ばされたエーディンは、人間の女性が持つ杯の中に落ち、酒とともに飲み干されてしまう。そして、今度はその女性の娘として生まれてきたのである。しかし、転生した彼女には前世の記憶は失われていた。なんといっても、この間、1012年の年月が経過していたのである。美しく成長したエーディンは、アイルランド王工オホズ・アイレヴの妻となった。
ある日、エーディンの前にミディールが現れた。
ミディールから自分が彼の妻であったことを告げ
られたが、彼女にはその記憶はまったくなかった。
業を煮やしたミディールは、強引に彼女を自分の宮殿に連れ帰ってしまう。
この仕打ちに腹を立てたエオホズ王は、エーディンを奪い返すべく、アイルランドにある妖精の丘をかたっぽしから壊し、ついにミディールの宮殿がある最後の丘だけが残った。追いつめられたミディールは、魔法で50人の侍女をエーディンに変え、その中に本物のエーディンをまぎれ込ませたうえで、エオホズ王に告げた。
「この中から本物のエーディンを選べたら、彼女を帰してやろう」 だが、エーディンはエオホズ王が選ぶ前に、「私がエーディンです」 と自ら名乗り出たのである。彼女は神より人間の王を選んだのだ。エオホズ王の宮殿に帰ったふたりはその後、幸せに暮らし、ふたりの問には娘が生まれたという。

Translate »