ドワーフの首飾り
神々の中で最も美しいといわれるのが、フレイの双子の妹フレイアである。彼女は実の女神として美しいものを愛したが、わけても誇りにしていたのは、フリーシンガメンと呼ばれる首飾りだった。実はこれを手に入れるために、彼女はかなり屈辱的な思いを強いられたのである。
あるとき旅の途中だったフレイアは、闇の妖精
が住む国を訪れた。そして、とある工房の前を通
りかかった。覗いてみると4人のドワーフ(小人)が、見たこともないほど美しい黄金の首飾りを作っている。フレイアは、その首飾りがどうしてもほしくなった。
「お願い、それを売ってくれませんか?」
「いや、これは金になんぞ代えられんな」
「それでは、あなた方がほしいものと交摸しましょう」「わしたちがほしいのは、あんただよ」 フレイアはゾツとした。醜いドワーフと同表するなど身の毛がよだつ。とはいえ、首飾りもあきらめきれない。結局、彼女は折れた。
「しかたないわ、では順番にひとり一夜ずつ、寝屋をともにしましょう」 こうして彼女は4挽かけて4人のドワーフと同蓑し、念願の首飾りを手にしたという。
ちなみに、この首飾りはその後もロキに盗まれたり、女装したトールが結婚衣装の上からつけたりと、北欧神話のエッセンスとして随所に登場することになる。
なお、ドワーフとの一件でもわかるように、フレイアはその美貌ゆえ、さまざまな男たちに狙われる。アスガルドの城壁作りを石工に化けて請け負った巨人は、報酬として太陽と月とフレイアを求めたし、トールのハンマーを盗んだ巨人は返すかわりにフレイアとの結婚を望んだ。
それというのも、彼女はもともと多情かつ奔放であり、その色気が男性を惹きっけずにおかなかったからだ。フレイアは夫がありつつも、多くの愛人がいた。特にお気に入りだったのが人間のオッタルで、彼を猪に変身させてそれに乗って移動することもあったという。
だがその反面、彼女は夫のオーズを愛する貞淑な妻の顔も持っていた。こんな話がある。ある日、夫が旅に出たままいなくなった。フレイアは彼を捜して世界中を旅した。そして、愛する夫を思って流した彼女の涙は、地中にしみ入って黄金にな
ったとされる。
一説によると、オーズはオーディンの別名で、フレイアは彼の愛妾であったともいわれる。
フレイアは愛の女神らしく、女性の美徳と悪徳をすべて内包した女神であったといえよう。