超兵器を操ったインドラ
インドラは「ヴェータ」神話では最も人気が高く、とくに 『リグ・ヴェーダ』 の中では、全体の約4分の1が、彼への賛歌になっている。
インドラの起源は古く、紀元前14世紀のヒッタイト条文の中にも記述があることから、小アジアやメソポタミアでも信仰されていた神だったらしい。また、雷や稲妻を神格化した存在であるため、ギリシア神話のゼウスなどに相当すると思われる。
インドラの体は黄金色または茶褐色で、髪や髭は赤か黄金。稲妻を象徴する武器ヴァジュラ (金剛杵)を持って、2頭の天馬の引く戦車に乗り、空中を駆け抜ける。天馬ではなく、4本牙の巨大な自乗アイラヴァータに乗るとの伝承もある。さらに、彼が地上に降り立つと虹がかかるともいう。敵は人々を苦しめる凶暴なナーガ(蛇)族のヴリトーフだ。
インドラにまつわる神話を紹介しよう。
- インドラは、天空神ディアウスと大地の女神プリウィティーの子として生まれた。彼が誕生したとき、ヴリトラが雨を降らせず、川の水をせき止めていたため、人々は早魅に苦しんでいた。
生後間もない彼は人々の嘆きを聞くや、必殺の武器ヴアジュラを手にし、神酒ソーマをがぶ飲みして戦いに赴いた。
戦いの末、ヴリトラに勝利したインドラは、恵みの雨を受けた人々の尊崇を集めた。やがて父を倒し、自分の地位を不動のものとした彼は、それを契機に最高神となったのである。
なお、ヴリトラを倒したことにより、後にインドラはヴリトラハン (ワリトラを殺す者)という異名をも持つようになった。
ところがインドラは、時代を経るにしたがって人気を失い、その地位はシヴァにとってかわられていく。その人気の凋落ぶりは、『ラーマーヤナ』の中で悪魔に捕まる存在にまで姪められてしまったほどなのだ。
だが、一部の伝承の中では依然として、インドラは神々の王として崇められており、神の都アマーラヴァティーの楽園で、天女たちに囲まれて暮らしているという。この都は神々、人間なら聖者、英雄として死んだ者しか入れない場所とされる。
これも北欧神話における、ウルハラ宮殿を彷彿とさせるものである。
なお、叙事詩『マハーバーラタ』などに登場する英雄たちの超兵器のひとつが、「インドラの炎」や「インドラの矢」などと呼ばれるもの。これは太古のインドで、インドラが悪魔の王ラーヴァナの大軍を一撃で死滅させた武器である。
ちなみに仏教に取り込まれた後のインドラは、帝釈天と呼ばれ、東方を守る守護神となった。