016.戦いに消えた稀代の英雄

アキレウスとトロイア戦争

総大将にアガメムノンをいただくギリシア連合軍とトロイア軍の戦争は、神々をも巻き込んで、10年という長きにわたった。トロイア軍にはパリスに味方するアフロディテをはじめ、アポロン、狩猟の女神アルテミス、戦いの神アレスらがつき、ギリシア軍にはこの戦争の遠因となったあの「パリスの審判」の際に、アフロディテに敗れたヘラとアテナのほか、ポセイドン、鍛冶の神へファイストスらがついた。
また、それぞれの軍には名を知られた英雄たちがいた。その中でも抜きん出ていたのが、ギリシア軍の英雄アキレウスであった。彼は「パリスの審判」を生むもととなった勇者ペレウスと海のニンフ、テティスの結婚によって生まれた子である。
アキレウスは不死身だった。そしてそれは、わが子に対する母テティスの贈り物でもあった。
「私はこの子を死なない身にしてやりたい」
そう思い決めたテティスは、冥府を流れるステユクス川に生後間もないアキレウスを連れていき、その水に浸したのである。だが、そこには落とし穴があった。テティスがアキレウスの両足のかかとをつかんでいたために、その部分だけが水に濡れず、不死の男のたったひとつの弱点となってしまったのだ。ちなみに、これが今も残る「アキレス腱」の由来である。
アキレウスは親友のパトロクロスとともにトロイア戦争に参加した。彼の獅子奮迅の働きは、敵を恐れさせるのに十分であった。だが戦いのさなか、愛妾を自軍の総大将アガメムノンに奪われたことに腹を立て、アキレウスは戦列を離脱した。
たちまちギリシア軍は劣勢となり、見かねたパトロクロスはトロイア軍を威圧しようと、アキレウスの鎧をまとって出陣する。
「アキレウスだノ アキレウスが戻ってきたぞ」
ギリシア軍の士気はおおいに上がり、戦いの趨勢もパトロクロスの活躍で優勢に転じた。そこに躍り出たのがトロイアの王子で勇名高いヘクトルであった。彼は敢然とパトロクロスに挑み、これを打ち破ったのである。
「神よノ 私の親友が死んだ!」
復讐心に燃えたアキレウスはヘファイストスの作った武具に身を固め、戦線に復帰する。そしてヘクトルに一腰討ちを挑み、これを討ちとった。
だが、アキレウスにも悲惨な最期が待っていた。戦いの最中に、ヘクトルの弟であるあのパリスによって討たれたのだ。パリスはアポロンにアキレウスの唯一の弱点を教えられ、そのかかとを矢で正確に射抜いたのである。

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