ミダスと黄金の手とロバの耳
フリユギアのミタス王には、ふたつの面白い話が伝えられている。
あるとき人々が、上半身は人間だが馬の耳と足、尾を持つ老人を王宮に連れてきた。老人は酔って道ばたに寝ていたという。三タスはすぐにそれが、酒の神ディオニュソスの従者シレノスだと気がついた。シレノスは生まれながらに老いて賢いといわれる山野の神である。
ミタスは10日10晩にわたって祝宴を催し、シレノスをもてなした。その後、ディオニュソスの元に連れていくと、彼はたいそう喜んだ。
「わしの従者がすっかり世話になったな。礼として、望みをなんなりと叶えよう」
欲張りのミグスはここぞとばかりにいった。
「わしの手に触れるものすべてが、黄金になるようにしてください」
「よかろう、おまえの望みは叶えられた」
神が去った後、ミグスはそばの木を触ってみた。するとそれは、まばゆい光を放つ黄金の枝に変わった。道ばたの石でさえ黄金になる。
「おお、これでわしは大金持ちじゃ」
ところが食事となり、王が肉を手にすると、たちまちそれは黄金に変わった。食べ物も飲み物も、すべてが黄金になってしまう。しかも、うっかり触れたところ、愛しい娘まで黄金の彫像と化したのである。飢えと渇きに苦しみ、なおかつ娘を救いたいあまり、ミグスはディオニュソスに願いを取り消してほしいと頼んだ。「ならばパクトロス川に行き、体を洗うがよい」
王がそのとおりにすると、彼の力は川に移った。そんなわけで、パクトロス川の砂には黄金が混じっているのだという。
またあるときミグスは、アポロンと牧神パンが演奏の腕比べをしたときに審査員を頼まれた。すべての観客がアポロンの竪琴に軍配をあげたというのに、ミグスはパンの葦笛を勝ちとした。怒ったアポロンは、彼に呪いの言葉を投げかけた。
「音の良し悪しも聴き分けられないおまえに、人間の耳どいらん。ロバの耳で十分だ」
ミグスの耳はたちまち伸び、ロバの耳になった。これを恥じた王はそれ以降、頭巾を目深にかぶり、冒を隠していたのだが、理髪師だけにはどうにも隠すわけにはいかない。
「よいか、耳のことはだれにも話すでないぞ」
理髪師は絶対に他言しないと誓った。だが、秘密を守るのも限度がある。我慢できなくなった彼は草原に行き、穴を掘って秘密をささやいた。
「王様の耳は、ロバの耳」
理髪師は穴を埋めて立ち去り、穴の跡には葦が生えた。そして、葦は風が吹くたびにささやいた。
「王様の耳は、ロバの耳」と…・