竜殺しのシグルズと運命の恋
北欧神話随一の人間の英雄シクルズ。その一生は決して幸福なものではなかった。
- シクルズはシグムンド王の恵子で、鍛冶の名手レギンが世話をしていた。あるときレギンは、シクルズに耳打ちした。
「悪竜ファウニ-ルを倒せば、名誉と莫大な財宝が得られますよ」 シグルズはレギンが鍛えた名剣グラムを持ち、彼とともに竜退治の旅に出た。
ファヴニールの棲み家に着くと、レギンは、
「留守のようですね。竜の通り道に穴を掘り、そ
こに隠れて帰りを待ちましょう」
と助言する。シクルズは剣を手に待ちぶせ、戻ってきた竜の心臓を下からひと突きにした。竜は断末魔の苦しみに毒を吐き、のた打ち回ったが、穴の中にいたシクルズは平気だった。
竜の死を確かめると、レギンはその力を手に入れようと目論み、シクルズに心臓を火にあぶるように頼む。彼はいわれるままに心臓を焼いたが、親指に火傷をして思わず指を口に入れた。そのとたん、彼は鳥たちの吉葉がわかるようになった。
指についた竜の血をなめたせいである。
「心臓を食べれば賢くなるのも知らずに、シクルズはだまされて火にあぶっているよ」「ファウニールはレギンの兄なんだよ。あいつは兄を殺させたうえにシクルズを裏切り、殺して財宝をひとりじめにする気だよ」 陰謀を知ったシグルズは、すぐさまレギンの首をはねた。それから竜の心臓を食べ、財宝も残らず手に入れた。こうして彼はいちやく「毒殺しのシクルズ」として、その名を高めたのだ。
シクルスは帰路、炎に囲まれた館で眠る娘ブリュンヒルドを救い出す。ふたりは恋に落ちた。
「私の妻はあなただけだ。必ず迎えにこよう」
固い約束を交わしたふたりだったが、シクルズはギューキ王の宮廷で王妃の陰謀にかかって、忘れ薬を飲まされ、恋人のことを忘れてしまう。そして王女クズルーンと結婚してしまったのだ。
その後、ブリユンヒルドを嫁にしようと目論む義兄クンナルに付き添い、シクルズは炎の館に向かう。炎が越えられないクンナルに代わり、彼は義兄に化けて館に入り求婚した。炎を越えた男と結婚すると決めていたブリユンヒルドは、この求婚を受けてしまう。
クンナルと結婚した後、ブリュンヒルドは真相を知った。そして、欺瞞のうえに成り立った結婚の報いとして、シクルズか、自分か、クンナルのいずれかが死なねばならないと夫に告げた。妻が死ぬことも自分が死ぬことも恐れたグンナルの指示で、シグルズは暗殺されてしまったのだ。